南極料理人

 南極ドーム基地の越冬隊で調理を担当した西村淳氏の手記『面白南極料理人』を原作にした映画です。かなり大胆に脚色していますが、原作のテイストやエピソードを大事にしているので不快ではありません(ニヤリとできる描写が随所に)。実際のところとても面白かったです。そして大変お腹がすきます。音の描写が丁寧だったり、「美味しい」という直接的なセリフが無かったりして、食事映画としてこだわりを感じました。空腹時に観ることをお勧めします。
 あとドーム基地の狭さや濃厚な生活感は大変僕好みですね! 男ばかり8人が400日以上共同生活をするというオソロシサも映像になるとより強調される気がします。馴れ合いの空気や言動が子供化するあたりは『刑務所の中』に通じるものもあります。ステキ映画。

『意志の勝利』

 渋谷で上映していたのが、そろそろ終わるのであわてて観に行きました。レニ・リーフェンシュタールが1934年のナチ党大会を撮った、歴史的ドキュメンタリーもといプロパガンダ映画です。いや、これがもう、あなた。80年前の映画だからって舐めちゃいけませんよ。ヤバい。頭おかしい。鷲、旗、演説、行進、鳴り響くドラム、執拗に描かれる金髪碧眼青年たちの身体、本場の気合入ったグースステップ(長身のSSが黒服でグース踏むと実に凶悪です)、RAITAさんが描いたようなニュルンベルク旧市街、なんたる中二病映画! そもそもドイツ語はあのゴシック体がいけない。これに比べればソ連趣味なんてよほどに渋い嗜好です。フィクションでナチにかなうわけがありません。
 なにせ超有名な映画なので、随所に見覚えのある映像があります。そしてこのときのヒトラーはみなぎってますね。大会中イベントがめじろ押しで演説も数多くこなしているだろうに、疲労の影もありません。それどころか閉会式の演説時に体調も精神も最高潮に持ってきているような印象があります。動作にいちいちキレがあるし、今更だけどただ者ではない。金正日はよほど普通の人です。
 とにかく情動、いや肉体に訴えてくる映画です。幾度と無く起立して右手を掲げてハイルせねばイカンような気がします。こりゃあ世界中でコロリと騙される人がいたわけですよ。そのくせ映画では反ユダヤ思想などカケラも匂わせないあたりは実に狡猾。モリナガ・ヨウさん曰く「一刻も早くニュルンベルグに行って、ナニゴトか成さねばならないいい!!」「来年の党大会にはゼヒ参加して、一緒に行進だ!」嘘じゃないんですよ、本当に……。

アルバニアインターナショナル』(井浦伊知郎 社会評論社

 積んであったのをようやく読みました。いや他にも読んでいるのですが、これは是非とも紹介せねばと思いまして。
 「共産趣味インターナショナルVol.1」などと銘打っていたので、茶化すような内容だったらどうしようと(そういうのも嫌いではないですが。つーか僕もやってるし)思って読んでみたら、共産趣味などカケラもなくそこにはただアルバニアへの愛と旺盛なサービス精神がてんこ盛り。 内容自体はアルバニアと世界各国との関係を物語るエピソードを中心に、アルバニアの文化風俗歴史を紹介するものです。著者の井浦伊知郎氏が40過ぎという若手であることも、感性が身近でより面白く読めましたね。アルバニア語の基礎知識なども書いてあるのがこれまた貴重。
 そしてなにより、アルバニア語という「マイナーな」分野における研究者の悲哀が漏れ伝わってくるのです。これはアルバニアだけの話ではなく、大学の学校法人化でますます苦しくなる人文系研究者に共通するものでしょう。井浦氏ひとりをプッシュしてどうなるものでもないですが……そらそうとイスマイル・カダレ『死者の軍隊の将軍』は買おうそうしよう。