『どくそせん』

 萌えミリタリーというジャンルも定着した観がありますが、そのなかでも気合いの入った本が出ましたよ! 二次大戦の独ソ戦全体を初心者向けに解説したものです。僕は何もしてないんですが、ありがたいことに編集部から一冊頂きました。
 著者は内田弘樹さんにEXCELさんという、やりたい放題のタッグです。主人公は縞ぱんつ履いたバウアーちゃんという神をも恐れぬ所業。作中でもえらいいじられ方だし。や、ちゃんと小林源文先生の許可は取っているそうですが。しかし本文はきっちり真面目に独ソ戦を解説しており、この辺「MC☆あくしず」を踏襲していますね。個人的には、ややしっかり書きすぎていて、入門本にするならもう少しわかりやすく見せる仕掛けがあってもいいんじゃないかと思いましたが。たとえばそれぞれの戦線を別々に見るのではなく、東部戦線全体を俯瞰できるような図版を入れるとか(でないとレニングラード戦線とかつながりがよくわかりませんし)。まぁ、ホントの客は初心者ではなくもののわかっているミリオタなのかもしれないけど。
 面白かったのは、43年をクルスク戦だけ取り上げるのではなく、むしろクルスク戦以降を重視している点などでしょうか(一方でドイツ者が狂喜乱舞する第三次ハリコフなどはさらりと流してますし)。ロシア側の対独協力者のことを大きめに取り上げていたり、最近のトレンドを生かした解説という印象です。あと内田さんらしいのが、スロヴァキア蜂起などもちゃんと書いているところ。ドゥクラ峠戦とか解説している入門書って!
 そうそう、不粋だと思うけどひとつだけツッコミを……「ゴリーキー」じゃないですよ「ゴーリキー」ですよ(どん底から)。あと「マキシマム・ゴリーキー」てな個所もあって、それ人名じゃねえ。

 さて、親ロシア派としての感想をここから。

  • 次はロシア視点の大祖国戦争本が欲しーい! 『どくそせん』は基本的にはドイツ視点です。まぁ、これは仕方ないでしょう。むしろロシア側の事情もちゃんと書いてくれている方です。でも内田さんはやはりドイツ好きマンであって、文章の端々からそれが洩れてきます。特に末期戦の、ドイツ将兵への思い入れは半端じゃありません。や、これはこれでいいのですよ。味気ない文章よりは、作者の主観や好みをしっかり通したものの方が面白いに決まってますから。でも次は……次はッ。ロシア兵にも愛をッ。
  • シュガポフがおとなしいぞ! 主人公のバウアーちゃんがナニがアレ過ぎて、敵役たるシュガポフがすっかり常識人に……(涙)。ボケがナニがアレなんだから、ツッコミももっと常軌を逸して欲しかったですハイ。キャラが薄い! しかし、普通のイメージならロシア兵がボケでドイツ兵がツッコミなんでしょうね。いや、ドイツもボケかな。むしろ壮大な天然と考えるのが正しいのかも。
  • 対独協力者やドイツ難民、ドイツ兵捕虜のことを書くなら、ドイツ側の特別行動隊やロシア兵捕虜の扱いなども書いて欲しかったですよ。まぁ、「独ソ戦の暗〜い部分に踏み込むことはできない」と断ってあるけれど。

 いろいろ書きましたが、でも力作です。独ソ戦をまとめた一冊としてお薦めですよ。EXCELさんの絵はネタてんこ盛りで愉快すぎて、なんというか萌えどころではないという気が。

どくそせん

どくそせん