耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳』(石川博品

 ナラー、やっとこさ読みました。「自由・調和・博愛」をスローガンとする「本地」を中心に、自治権を持つ雑多な王国がまとまった「活動体連邦」。そのとある学校を舞台にした学園青春政治ラノベ……でいいのかな。多様な文化とその摩擦、民主制を建前としながらも本地と王国の微妙な関係、あと二次元的妄想のオンパレード。クセのある作品ではありますが、面白かったです。オタク的時事ネタをフンダンに盛り込んでいるのは違和感を覚えましたし(来年にはもう古くて読めないのでは)、主人公の行動原理がいまひとつわかりづらいのが難ではありますが(処世術に長けているのかそうでないのか)、いやでも好きです。作者が岩手出身ということで、北国の描写に説得力があったのもお気に入り。某所で「なぜイラストが速水螺旋人じゃないんだ?」と書かれた件については、まぁ確かに僕好みのネタが満載ではあるのですが、でもこの本の絵描きさんみたいなキャラのかわいさでは勝負できないでしょうしねえ。むむん。

『東部戦線の独ソ戦車戦エース1941-1945年』(マクシム・コロミーエツ)

 今まで日本語の資料がほとんど無かった、大祖国戦争ソ連戦車兵に関する記録としてきわめて貴重。一方ドイツ側の戦車エースについては今までも沢山の本が出ているのであまり読みどころが……実はあるのです。宮崎駿が『泥まみれの虎』を描いたことにより、オットー・カリウスとその手記は一気に有名になりましたが、その内容が批判的に検証されているあたりなど興味深かったりするのですよ。

『幻影シネマ館』(佐々木譲)

 ケビン・コスナーがデビューしたての頃に出た青春映画『サマー・デイズ』、『椿三十郎』を翻案したリー・ヴァン・クリーフ主演の『ハード・ノーベンバー』、ベルナルド・ベルトリッチが戦争直前のベルリンを舞台に描いた愛憎劇『戦争は始まっていない』、マイケル・ダグラススパルタカスの息子を演じる超大作スペクタクル『スパルタカス2』……等々、日本未公開だったりお蔵入りしてしまった幻の映画を紹介した一冊です。てぇのは嘘で、実在しない映画のレビュー集なのです。法螺の吹き方というのはいくつかありまして、大声で出放題をぶちあげ、ちょっぴり本当のことを混ぜて相手を煙に巻く方法がひとつ。僕の「馬車馬大作戦」などはこれに近いかもしれません。それに対して、この本は頬杖をつきながら淡々と真面目そうに語る大法螺です。全編にわたってもっともらしくて楽しくなりますよ。にしても、深夜TVでひっそりやってそうな作品が多いなぁ……。

耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳 (ファミ通文庫)

耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳 (ファミ通文庫)

幻影シネマ館

幻影シネマ館