『宇宙の傑作機 長征二号』(風虎通信)

 冬コミで頂いた同人誌を帰省中に読んでいました。中国のロケット長征二号についての本ですが、かの国における宇宙開発史全般についても解説されていて大変面白かったです。50年代、まさにゼロからスタートしたときは技術も設備もなくて中ソ蜜月時代に来ていたソ連人技術者をして劣悪と言わしめた状況で、ガスケットに子牛の皮を使ってみたというエピソードはそれでもなりふりかまわぬ情熱を感じます。溶接工を育成するのに戦闘機パイロット以上のカネがかかったとか……。そして60年代には宇宙開発の場にも文革の嵐が吹き荒れて、研究所は麻痺状態になるわそれどころか科学者がリンチで殺されるわ、よくもまあ乗り越えてきたものだと驚くばかり。宇宙開発以外でもそうなのでしょうけどもね。中華民国時代の北京や上海で教育を受け、アメリカでトップクラスの科学者としてキャリアを積んだあと50年代に帰国した中国宇宙開発の父、銭学森が世の中についてどう感じていたかも知りたいところです。黄金時代のアメリカを知ったあとに大躍進や文革を経験するってどんなものなんでしょうね。

『ロシア宇宙紀行』(風虎通信)

 去年の秋に、ロシア宇宙開発史とその現場を見学するツアーに参加された福間晴耕さん旅行記。これがまた格別に濃い旅行だったそうで、読んでいてギリギリと嫉妬に悶えておりました。時期的に行けるわけはなかったのですが! ああ羨ましい妬ましい! ロシアでの食事についていろいろ書いてあるのも印象的で、そうですよね美味しいですよねーと一人頷いていたり。今年はなんとしてもロシアに行きます。そうとも!

ソ連史』(松戸清裕

 ソ連が解体して20年、ようやくこういう本が出てきたという感があります。ネットではソ連イメージの抽象化と単純化が進んでいて(もう無いのだから無理もないのですけども)、なにかといえばスターリンとか粛清とかそんなネタが横行しています。しかし当たり前ですがあの広大な国土と70年の紆余曲折を一言で済ますことはできないのでして、ステロタイプソ連を見ている方にとっては新鮮な驚きが得られるのではないでしょうか。福祉国家としての側面や、共産党と政府が意外に民意を汲み取る努力や理解を得るプロセスを重要視していたこと(無論民主的な政体ではありません)、巨大な国土とまばらな人口密度ゆえに統制を取ることが困難な事情などなど、読みやすいですし入門書として良い一冊になっています。お勧め!

ソ連史 (ちくま新書)

ソ連史 (ちくま新書)