『チューバはうたう mit tuba』(瀬川深)

 知人の瀬川さんの初単行本。知り合いということを抜きにしてお薦めですマスト買え。部数が少ないのか、地元の書店では見当たらずamazonで購入。露出が少ないので、余計に紹介したくなるというか、これを読んで興味を持ってくれる方がいれば幸い。身内だとMORiTAくんは好きじゃないかな。
 太宰賞受賞作の「チューバはうたう」は、インディペンデントのチューバ奏者である女性の話。クライマックスでのライヴの盛り上がりっぷりたるや、殴りつけてくるようで鳥肌が立ちます。あと主人公が凛としてかっこいいのですよね。かっこよすぎて、こんなおねえさんはいないだろうこの中身は男だ、と思っちゃうけど! 帯にも引用されている、このくだりがお気に入り。

 嘘だとお思いか?
 ならば、私が、吹いてやる。私の肺は空気を満たし、私の内腔はまっすぐにチューバへと連なって天へと向いたベルまで一本の管となり、大気は音に変わって世界へと放たれるのだ。

 この本にはあと2作が収録されてまして、そのうちのひとつ「飛天の瞳」は東南アジア描写がステキ。世界をあちこち歩き回った瀬川さんの面目躍如といったところ。作中に登場する、実在するのかどうかわからないパンドゥンという音楽が聴きたくなりました(思う壺っぽい)。「百万の星の孤独」は東北の片田舎で開かれたプラネタリウム鑑賞会に集まる人々の話。非モテでなにか人生にかかわるカンチガイをしたっぽい「ロンゲ」に一番感情移入しますよ。
 どれも元気が出てがんばる気になる話です。意地悪さも感じるのだけど、それでもちょっと行儀がいいかしら? 瀬川さんの狂気や反社会性をギラギラとアラワにした作品も読みたいなー。こう、肉食の話も是非。

チューバはうたう―mit Tuba

チューバはうたう―mit Tuba