『レッド・バロン』
第一次大戦ドイツの伝説的なエース、マンフレート・フォン・リヒトホーフェンの戦いを描いた映画。史実と違う点について重箱の隅つつきをする気はないのだけど(映画ですからね)、場面や人物の描写がいささか唐突で大河ドラマの総集編を観ているような印象がありました。話のつなぎ方が雑といいましょうか。特に最初と二番目の空戦シーンが素晴らしかっただけに残念。とはいえあの空戦のために1800円払った価値はありましたよ。
『プリンセス トヨトミ』
世のなかには「ダメだが好きな映画」というカテゴリーがありまして、たとえば『さよならジュピター』などがここに分類されます。『プリンセス トヨトミ』もまさにそういう作品でした。予告編で見せてくれたような、豊臣末裔の少女と大阪国の蜂起という物語を主軸に据えたアホ映画ならもっともっと楽しかったでしょうに! 大風呂敷を広げておいて父子のいい話にまとめてしまうのはいかにも肩透かしで、それを抜きにしても脚本がダメでしたねえ。なんでも台詞で説明するというのはダメ脚本の基本じゃないですか。でも役者は良かったし、いい絵もチョコチョコあったのでそれなりには楽しんできました。もともと映画のハードル低いんですよ。
『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』
ムッソリーニの妻、イーダ・ダルセルを描いた映画。第一次大戦直前、激越な社会主義者だったムッソリーニと恋に落ち子供もできた女性ですが、彼には正妻がおり……という物語。イーダは自分こそが妻であると主張しますがファシスト党はその存在を認めず、息子を取り上げ彼女を精神病院に閉じ込めてしまいます。ムッソリーニがいい役者でした。演説するイタリア語は美しいですね。ドゥーチェになってからは記録映画の映像だけが使われ、遠い存在になったことが強調されます。そして舞台が精神病院になってからの話の重苦しいこと……「愛の勝利を」というのがなんとも皮肉なタイトルでした。そうそう、当時のフィルムと場面転換でのスーパーの使い方が非常にかっこよかったです。途中にもちょっと登場する、未来派を意識した絵作りなのでしょうか。
『アップルシードXIII』
ニコ生で1話を観ました……アップルシードというのはどうしてこう映像運が無いのでしょうねえ。これっぽっちも期待していなかったにもかかわらず、観終わったときのションボリ感。映像はPS1ムービー並みで話は凡庸で、デュナンたちの魅力のひとつは彼女たちの「プロっぽい挙動」にあるのにどうして映像化されるといつも素人のようなブツブツ。でも赦します。訓練された士郎正宗ファンは寛容なのです。そして、作っているスタッフもこれが面白い作品だとはおそらく思っていないはずなのです。ときとして、世界にはこういった誰も幸せにならない作品というものが存在します。数限りない会議を経て、ああこれはダメだと感じても仕事だしどうしようもない状況。そういった世界の片鱗に触れたことがあるので、本当によくわかるのです。ああ伊藤計劃さんとご一緒に観たかった(伊藤計劃さんのアップルシード映画感想はこちらとこちら)! あとアップルシードをもう一度映像化しようとする人はityouさんのこの記事を熟読しておくように。
『乙嫁語り』3巻(森薫)
いよいよロシアの影が濃くなってきたので、そろそろイケメンロシア貴族騎兵将校を出してください(定期ポスト)。あと、厳密には架空とはいえ物語の場所がほぼ明らかになりましたね。『エマ』でもそうでしたが、森薫作品の魅力のひとつとして、登場人物たちのドラマの背景にきちんと歴史を感じさせるところがあると思うのです。エマなら来たるヴィクトリア時代の終焉と戦乱の時代、乙嫁もロシアのトルキスタン征服やイギリスのグレートゲーム。マクロな世界と、人物のこまやかな感情や市場の美味しそうな食事といったものを一緒に見せてくれるのはとんでもないことですよこれは。今回の萌えどころは、キジを手際よく嬉しそうにさばいてくるアミルさんでした。
『ストレニュアス・ライフ』(丸山薫)
『ねじまき少女』(パオロ・バチガルピ)
「en-taxi」 11号
『仁義なき戦い』のコンビ、深作欣二と笠原和夫が撮ろうとし、果たせなかった『実録・共産党』という映画があります。笠原和夫によるシナリオを読みたいなーとずっと思っていたのですが、雑誌「en-taxi」の付録で出ていたことを知りまして、調べてみたらあっさりバックナンバーが買えました。素晴らしい。戦前、日本共産党の非合法時代である草創期を描いた作品です。主人公は書記長だった渡辺政之輔。ああ深作と東映の脂っこい絵で観たかった! 『イワン雷帝』第3部をスターリンが焼いてしまったのと並んで悔やまれます。
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