伊藤計劃(id:Projectitoh)

 覚悟はしていましたが、寂しいです。本当に寂しいです。あのざりざりした、挑発的な話はもう読むことができません。
 僕が強烈に影響を受けた人物で、かがみ♪あきらという漫画家がいました。今に連なるオタク文化の直接の尖兵として、かわいい女の子絵とメカデザインを武器に80年代前半を席捲した人です。若くして突然に亡くなりました。……作品の方向性はまるで違うのですが、僕は伊藤計劃さんの訃報に際し、かがみ♪あきらを思い出したのです。鮮烈な新しさ、衝撃、そして生きていれば送り出していただろう驚くべき傑作の数々! あの想いをまた味わうとは。
 ブログをずっと愛読してきたので、病状が思わしくないことは想像がついていました(先日過去ログをさかのぼってみたら、随分前から闘病生活を送っていたことに改めて気づきましたが)。今年の2月、知人から「後悔したくなければ一日でも早いほうがいい」と声をかけてもらい、直接ご挨拶できたのは僕にとって本当に名誉なことです。が、現在追い込み作業中の単行本『螺旋人リアリズム』をお渡しすることができなかったのが残念でなりません。
 「伊藤さんは我々の胸のなかで生きている」などという台詞は、いまやパロディのネタとしても陳腐な言葉かもしれません。が……伊藤計劃さんは、人間の生というものへ真正面から取り組んだ作家でした(闘病生活で死の淵を常に覗き込み続けたからこその視点でもあるでしょう)。そしてついに答えを出すことなく往ってしまいました。しかしその問いは伊藤さんの死を超え、我々が生の意味なるものを考える際常に踏まえねばならないものになるはずです。暴力、不条理、無意味な死の向こうにシニシズムではない何かを見出そうとしていた人なのですから。
 おつかれさまでした。そして本当にありがとうございました。