東京都美術館 ブリューゲルと「バベルの塔」展

 まずはフランドルの美術を支えた文化と繁栄に感心です。ほとんどの画家はまだ職人扱いの時代で氏名不肖の人物が多いのですが「枝葉の刺繍の画家」と便宜的に呼ばれる、作家性の強い人もいて目を惹かれます。ヨアヒム・パティニール「ソドムとゴモラの滅亡がある風景」もインパクトが強い。
 ……と感心しながら見ていくと、やがてボスとブリューゲルが登場して、これがもう別格。彼らであることを知っていて見るからそう感じるのではないか、権威主義ではないかと考え込むのですがやはり格が違う。何なんでしょうこれは。
 特にボスは複製が多く作られたりフォロワーが登場したり「ボス風」がもてはやされていて、当時から「なにか違う」と思われていたようです。ボスの作風……特に怪物たちはよく奇想といわれますが、僕は100%のオリジナルというものはなかなか無くて、なにか元になったイメージはあると思っているのですね。そういうプレ・ボスが知りたいところです。 

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■『美しい星』

 三島由紀夫原作。天気予報士大杉はある日自分が火星人であると「覚醒」し、強引な形で地球温暖化に警鐘を鳴らすようになる。そして彼の家族たちも自分が「水星人」「金星人」だと言い始め……。吉田大八監督らしい、ムズムズする居心地の悪い作品。大好きです。原作をこう料理するのかと(大胆な改変あり、忠実な場面あり)感心したり。キャスティングが素晴らしいですね。橋本愛の不思議っぷりや、「水星人」であるbotみたいな政治家秘書を実に楽しそうに演じる佐々木蔵之介! ★★★★☆

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■読
・前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』
 蝗害を起こすサバクトビバッタを研究するため、モーリタニアへと赴いた研究者の奮闘記。いまの日本で若手の研究者がいかに厳しい状況に置かれているか、という本でもあります(ひょうひょうとした筆致でだまされてはいけません。前野氏は無茶苦茶優秀な人です。あと熱血です)。バッタの生態・研究以外に、モーリタニアの文化やバッタ対策(そのための研究施設)、魅力的な専属ドライバー氏についてなど読みどころも沢山。ファーブルの銅像に自著の原稿を捧げに行く場面は胸が熱くなりました。ファーブル、フランスではほとんど知られてないそうですね。僕に中学生の子供(残念ながらいません)がいたら是非読ませたい一冊です。

快晴

 梅雨はどこへ?

■『ドッグ・イート・ドッグ』
 エドワード・バンカーの原作は「面白かった」という印象だけが残っていて話はすっかり忘れてました。「3ストライク制度」とか、あーそうそう!
 R18でどう考えてもミニシアター系の毛色なのに、近所のシネコンでやっていて驚きましたよ。
 ノーフューチャーな犯罪者たちの暴力と悪趣味をオシャレに見せてやろうというあざとさ満点の演出で、なんだか懐かしさを感じるセンス。90年代クライムアクション大流行時代を思い出して、僕こういうの好きですけども。『フリー・ファイヤー』といい低予算クライムアクションの波がまた来てるのかしら? キジルシ&ダメ人間枠のウィレム・デフォーよかったですね。★★★☆☆

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■買

ロシア革命ソ連の世紀 1 世界戦争から革命へ』(岩波書店

共謀罪法案成立についてよしなしごと

 共謀罪が本決まりとなりました。安倍政権は内政で通したい政策があれば、有無を言わさず通してくるので、まあそんなもんやろなというのが正直なところです。あれだけ議席与えてしまっているのだし、止めようなどありますまい。最後のドタバタは、盤石の議席数を持ってにしてあの慌てぶりかと呆れましたが。やれやれ。
 とはいえ明日からいきなり治安維持法の世界がやって来るわけではありません。今後どうなるか、それは長い目で見なければわからないでしょう。小うるさい市民が監視することでその運用に影響を与えることができるので、反対運動にはおおいに意味があります。気長で地道な道のりになりますが。

 共謀罪が本当に危険なのかどうか、実のところ僕にはよくわかりません。ただ、反対意見の数々に対してあまりに安倍政権側の説明がお粗末です。金田法相のひどさは言うに及ばず。組織犯罪への対処が目的のはずが対テロと主張してみたり、オリンピックと無理に関連づけたり、政府関係者は対象外だったり、「一般人」というケッタイな概念をいじってみたり、うーん便利な法律ですね? なぜいま必要なのか、きちんとした説明もなされていません。権力・警察の恣意的な捜査や裁判所のありようも問題山積で、現状ではやはり無理がありそうです。

 共謀罪にかぎらず、僕は安倍政権が非常にあやうく見えます。沖縄基地問題、安保法制、森本・加計学園疑惑、共謀罪などなど、いずれも意見の異なる相手との対話や合意を最初から排除していませんか。取り繕うことすらせず(これ大事ですよ)、それはもうおおっぴらに。
 歴代自民党政権が特別に誠実だとは思いませんが、あまりにこれは不誠実です。雑です。人を馬鹿にしちょるよ。あまつさえ器が小さい。

 まともに受け答えをしなかったり、関係のない話を長々と連ねたり、相手を小馬鹿にするなどといった安倍首相の国会答弁はすっかり当人のトレードマークになった感があります。気の利いた(ような)ことを言って相手をやり込めるスタイルは、残念ながら支持者にとってたいへん気持ちのいいものです。これは安倍首相にかぎらず、政治的な志向にかかわらず、よく見かける光景です。「お前と同じ場にいるのは不快だし、俺たちはかしこい」と言い放つのは爽快なのです。不快を攻撃性に転じて快となす。わかる、わかるぞ。ウチもするぞ。

 これは内向きとしてはとても効果的です。でも、外に向けた姿勢ではない。誰がやってもあまり感心はしないし、特に一国の首相はやってはならないスタイルなのです。身内の呑み会でやりなさい。
 国には多様な人がいて、多様な意見があります。しかし支持率が高いからといって、支持者だけに向かって話す総理大臣。おそろしいことです。安倍総理、マイノリティを相手にする気がないのではないか。
 願わくば、この方法を真似する最高権力者があとに続きませんように。

 今後どうなるか正直憂鬱になりそうですが、『自民党 「一強」の実像』にもあったようにたった数年のスパンでも未来はどうなるかわかりません。それに空は青いし花も咲く。日本だけに目を向けることもありません。先のことはわからないから面白い。僕はオプティミストなのです。

(付記)
 Twitterを始めとするwebでは、外を向いたふりをして内側のみを相手にした言葉が横行してますが、まあこれはかまわないのです。webは誰かと対話するためだけの場ではないので、お好きなようにすればよろしくてよ。ただ、それでは異なる意見の持ち主に届かないだろうなー勿体無いなーと思うことは多いです。

安村仁志『ロシアのシベリア進出史』

羽根田治『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』

池田嘉郎『ロシア革命 破局の8か月』

松戸清裕ソ連という実験 国家が管理する民主主義は可能か』

一條裕子『貂の家』

鈴木健也『おしえて! ギャル子ちゃん』4

REM『Devil's Candy』1,2

 

池田嘉郎『ロシア革命 破局の8か月』